(ネタバレあり・文中敬称略)
“西遊記”が誇る白馬の王子様です。
ごめんなさい、オヤジギャグでした。
念のため紹介すると、三蔵法師の乗る白馬にして、実は西海龍王のところのドラ息子(三太子)が変化した姿。ご存知ですよね? ね? 最近は
認知度も上がってきたように思うんですが。でも、西遊記に関心のない人にどの程度知られているのかは、正直ビミョー。
映像化にあたってサクッと省略されることも多いです。玉龍・・・
『西遊記』の作中でも、一行に加わったのは悟空に次いで2番目なのに、弟子の中では末席扱いです。 本来、実年齢(?)に関係なく、入門した順で序列が決まる相撲部屋か吉本かって組織だというのに。 まがりなりにも宮仕えの経歴を持つ他の面々に比べ、 実務経験が(たぶん)無いので、“乗り物”枠で別途採用って感じだったのしょうか。 それでも腐らず、黙々と三蔵法師を運んでいます。真面目なんだか、覇気がないんだか、 いわゆる草食系男子ってやつですね。 鷹愁澗でさくら肉をガッツリいって以来、草とか飼葉しか食ってないから、しかたない。
そんな玉龍にスイッチが入るのが、悟空破門中の宝象国。 残る兄弟子たちは(毎度のことながら)頼りにならず、三蔵は黄袍怪の計略で虎に姿を変えられ絶体絶命の局面です。 そこで一計を案じ、美女に化けて黄袍怪に近づくと、『アラビアン・ナイト』のモルジアナさながら剣の舞、そして大立ち回り、絵になるシーンです。てか、おいし過ぎ。 結局は敗走するんですが、八戒、悟浄が2人がかりで敵わなかった黄袍怪相手に、それなりに渡り合っただけでも上等でしょう。 やれば出来る子、と言いたいところですが、それだけの能力があるなら平素からもっと働け、という突っ込みが先にたちますよね。
実際、成立過程で残ったと思える矛盾が散見される『西遊記』の中でも、玉龍に関する描写は特にチグハグ感が目立ちます。
上記の宝象国では、馬の姿のまま八戒を言いくるめて、悟空を呼び戻しに行かせるくらいのことはやってのけているのに、他の箇所では悟空たちが目を離したすきに三蔵が妖怪に攫われても座視していたり、落差が激しい。
というより、本性が龍だという設定じたいが無くなっているようにも見えます。
父ちゃんの西海龍王からして、章によって名前が一定していなかったりするので、このあたり、別系統のエピソードが整合性が十分とれないまま混在しているのだろうなと、文学素人が読んでも感じます。
それにしても、百回本にまとめるにあたって、(呉承恩なのか、別の人なのか、あるいは『西遊記』製作委員会なのか、作者が誰であれ)もう少し内容を擦り合わせるとかできなかったものでしょうか? というのがシロートの素朴なギモン。
セリフだけでも、チョロッとフォローを入れておけば、少しは統一感を出せそうなんですが(いかにも小手先ですけどね)。
たとえば、黒河の鼉龍(鼉潔)が、三蔵をメインディッシュに、伯父にあたる西海龍王を招いてお誕生日会を開こうとした事件。例によってバイオレンスな手段で招待状を手に入れた悟空、さっそく西海龍宮に捻じ込みます。
いわく「お宅ら兄弟とは昨日今日の付き合いやないさかい、事を荒立てたくはないねんで。せやけど、ここにこうやって動かん証拠がおますさかいなあ。これ持って出るとこ出たら、どないなるやろね?(byエセ関西弁コンバータ)」
って、恫喝でんがな。それはいいとして(いや、よくはないですが)、龍王一族との過去の行き掛かりに触れていながら、お互いにとって縁のずっと深い関係者が身近にいるのに、一言もないなんて水臭いです、師兄。
ちなみに、西海龍王の不肖の甥っ子の鼉潔ですが、涇河の龍王の遺児と紹介されています。
つまり西海龍王(というか四海の龍王ブラザース)の姉妹が、涇河の龍王に嫁いでたんですね。
そもそも、涇河の龍王って誰よ? って感じですが、物語のずっと序盤で、しょーもない罪で処刑された龍がいました。
それが涇河の龍王です。
このことが廻りめぐって、三蔵の西天取経の発端(の1つ)になるんですが(「風が吹けば桶屋が儲かる」的な意味で)。
そんな(きっと)誰も覚えちゃいないチョイ役の龍には言及するのに、玉龍はスルーですか。そーですか。
映像の中の玉龍
映像化にあたってはハブられることも、ままある玉龍。
いろいろと限られた中で作っているのだから、しかたないのはわかるけど、モヤッとします。
だから、79年版(藤村俊二)や94年版(柳沢慎吾)のドラマでレギュラー入りしたのは、さり気にウレシイ。
・・・ウレシイのだけど、実際に画面で見てみると、玉龍、うざいかも・・・(ゴメンナサイ)。
なんというか、他の4人だけで主だった性格属性をカバーできてしまってるんですよね。
作品によって、各キャラの性格は微妙に異なっているのだけど、原典でハッキリした性格付けがされていない悟浄が、他の3人が持っていない部分をフォローしてしまえるので、そのうえ玉龍を加える必要性が無いというか。
それでも無理やり個性を持たせようとした結果、わざとらしいキャラになってしまって鼻に付く感じかと。
それに、“西遊記”の物語は、三蔵一行が旅先で出会った人々と関わる形で展開するのが原則。
毎回、敵の妖怪も含めて主要なゲスト・キャラが何人も登場します。
そこにレギュラー・メンバーが加わることになるので、5人は多過ぎるんですね。
全員を動かしきれず、モタ付いた展開に陥りやすいし、画面上もゾロゾロいっぱい人がいて、じゃまくさい。
で、やっぱり玉龍は、ふだんは黙って馬をやっていて、たま~に存在を示すくらいがちょうどよい、と当たり前すぎる感想に落ち着いてしまうのでした。
中華圏に目を移すと、ドラマでは原典同様、人間の姿になったりして活躍するのは全編通して数度というのが一般的らしい。
まあ、妥当な感じです。
中国84年版の王伯昭(ワン・ボーチャオ)や、香港96年版の湯俊明は、だいたい原典と似たようなウェイトで扱われてました。
香港・台湾合作の2002年版では、三蔵法師の中の人とユニットを組んでいる許志安(アンディ・ホイ)が特別主演(友情出演?)扱いで、顔見せ程度に演じてましたね。
興味深いのは84年版で、物語中盤の祭賽国に登場する万聖公主(牛魔王のダチの万聖龍王の娘)とその亭主の九頭駙馬が、玉龍と過去に因縁(痴情のもつれ的な)があることになってます。
これが玉龍が罪人(龍)に身を落とし、後に西天取経に加わるきっかけにもなっている。
こんな設定は原典(明刊本)には見えないのですが、このドラマは「原典に忠実!!!」を売りにしているフシがあるので、もしかしたら他の系統の物語(戯曲とか?)で、わりと流布していて受け入れられている元ネタがあるんでしょうか?
(三蔵の出生譚なんかも明刊本では省かれてるけど、広く知られていて公式設定になってますし)
ハナシとしては面白いんですが、(相対的に)悟浄の影がよけい薄くなってるような。
ちなみに、作中での呼び名は“玉龍”だったり、“白竜”だったり、“(西海龍王)三太子”だったりします。どれもあまり固有名詞って感じではないですね。 別に本名があったりするんだろうか?
スルーされていることも無くはないけど、実写に比べると多彩なパターンで存在を主張してます。 いろいろ使いどころがあるというか、わりと便利に使われてる感じです。 以下に、主なところを。
三蔵の移動手段という肝心な用途に着目したタイプと言うんでしょうか。
肩乗りの白竜が、なぜかジープに変身する( 『最遊記』シリーズ)というのもありましたね。
『マシュランボー』のハクバー は龍とも馬ともつかない動物を模した1人乗りメカで、人格を持ち会話もできるあたり『ナイトライダー』のスーパーカー、ナイト2000なんかに近いかも。
忠実なロボットといった性格で、ヒロインであるヤクモの冷凍睡眠カプセルになっていた他、けっこうマルチな機能が次々出てきたり、いろいろな情報を知っていたりと、ナカナカ都合のよい存在でした。
『アソボット戦記五九』には、“アソペット”と呼ばれる動物型ロボット(この場合は馬)のスカイウォーカーが出てきます。
五九が戦闘フォームに変身する際に、(これといった説明も無く)現れて必要なパーツを射出するのが一番の役目。
普通の賢い馬並みの知能と意思を持っているようで、飼い主(?)の五九によく懐いていました。
『イタダキマン』でも、ヒロイン法子ちゃんが馬の形のロボットというかメカに乗っていましたが、こっちはただ乗って移動しているだけの描写で、いてもいなくてもどーでもいい感じ。
操縦されているのか自律的に動いているのかも不明です。
とにかく移動できればよいと。
『SF西遊記スタージンガー』の原作(原案)の『SF西遊記』(石川英輔:著)中では、玄奘の乗る宇宙船は“白馬号”という名前で、まだ玉龍の痕跡がありました。
アニメではクィーンコスモス号になってしまいましたが。
名前だけなら、PSゲームの『東方珍遊記~はーふりんぐ・はーつ!!~』に出てくる飛行船が“ドラゴン・イン”で、元々は龍であったことを主張しているような(“ドラゴン亭”ってことでしょうか? というより、香港のカンフー映画のタイトルなんですね、中国語だと『龍門客棧』)。
いずれにせよ、もうキャラとは呼べない形です。
そういえば、『ふぁみこんむかし話遊遊記』というゲームに出てきた“りゅうきち”という名前のスクーターもありました。
やはりキャラとは呼べない見た目ですが、元々は龍だったのが、イタズラが過ぎてお釈迦様に姿を変えられたという設定で、自分の意思で動くし、なんだか会話もできていたので、外見以外はかなり動物的。
三蔵に対しては、なかなかの忠義モノで、カテゴリー的にはハクバーなんかに近いかもしれません。
本来の姿を一番とどめているパターンでしょう。
国内のアニメで原典のイメージに近いのは、意外(?)と『パタリロ西遊記!』の龍馬太子。
父親の龍王に放逐された放蕩息子です。
作中では、ほぼ馬として活動。
台湾製のアーケード・ゲーム(ベルトスクロール・アクションというらしい)『西遊釋厄傳』では、龍馬が妹の小龍女(シャウロンニー)と共にプレーヤー・キャラとして登場するようです。
(実機に遭遇したことがないので、プレー動画を見ただけですが)中国歴史ドラマに登場する若武者風のいでたちで、プレーヤー・キャラの中では一番イケてます(てゆーか、まだまし)。
しかし! その後、リニューアルされた『西遊釋厄傳2』では、プレーヤー・キャラは増えたのに、龍馬は外されてしまったんですね(馬の姿のみで登場)。
小龍女は残ったのに。
玉龍・・・
意外と乙女ゲームとの相性が良いのも“西遊記”(プレーヤーを三蔵ポジションとすると、なんかわかりますね)。
すべてのプレーヤーの好みにヒットするよう、あらゆるタイプのイケメンを取り揃えるのが、このテのゲームのキモ。
というワケで、玉龍も逆ハーレムの構成員として動員されてます。
『S.Y.K~新説西遊記~』ではコミュ障、『妖恋西遊記LOVERS』ではヤンチャとタイプはわかれますが、チーム内での立ち位置的に、ヒロイン一途な年下属性がデフォの模様(自分はやってないので、あくまで模様ですが)。
性別が違うだけでなく、名前も別。
馬その他の乗り物に変身しない例も多いので、龍馬ポジションというのも怪しい気がする。
もう玉龍じゃないじゃんという意見もあるでしょうが、でも父親が龍王だったり、本人が明らかに龍だったり、たぶん龍なんじゃないかな~も含めて、玉龍から派生したであろうと推測される一群の女子です。
しいて言えば、宝象国での艶姿が元のイメージ?
映像化にあたって持て余し気味の玉龍に存在意義を与え、同時に“西遊記”モノの泣き所、“女性登場人物が少ない”を解決するという一石二鳥方式で、三蔵法師ヒロイン化ほど一般的ではない印象だけど、アニメやゲームでわりとよくあるパターン。
(実写映画だけど『西遊記リローデット』も、大きく括ると入れられないこともないような。)
このタイプは三蔵ポジションと異なり、ヒロインというよりマスコット的存在として扱われている印象ですね。
龍だけあって、勝ち気で奔放な性格の子が多い。家出娘率高し。
まず思いつくのは、『悟空の大冒険』の竜子(タツコ)でしょう。
妖力は持っていましたが、住まいが水の底の龍宮っぽいところなのと、そのまんまな名前以外は龍らしい描写はなかったように思いますし、馬にもなりません。
ただし、原作(いちおう)の『ぼくのそんごくう』(手塚治虫:著)に出てくる同じ名前の馬の正体は、(なぜか西海でなく)東海龍王の娘でした。
この龍は馬になって、人間の言葉も話してましたし、それどころか男の人にも変身したのに、(自分が読んだ範囲では)女性の姿にはならなかったと記憶します(←ちゃんと読み直してみたら、たま~に女性の姿にもなってましたね。ただし、やっぱりナマズヒゲのオッサン姿がデフォというか主。馬の時はムダに女っぽいのに、ナゼ?)。
わざわざ原典のキャラの性別を変えたというのに、意味ないじゃん?! まさに誰得(よほど特殊な嗜好の持ち主は別として)、という男性読者の心の叫びから生まれたのが、アニメ版の竜子・・・なんでしょうか?
PSゲームのコーエー版『西遊記』の朱涼鈴も、やはり東海龍王の末娘となっていました。
龍の姿に変身します(というより、こっちが本性?)が、馬にはなりません。
一方、アニメ『MONKEY MAGIC』のロンレイは龍でもあり、白馬にもなって三蔵を乗せます(と書くと、なんか無駄にヒワイなような)。
『西遊釋厄傳』の小龍女(シャウロンニー)は、上記のように龍馬(兄)は別にいるのですが、やはり玉龍の派生キャラと言ってよさそうです。
『西遊釋厄傳2』では龍馬は実質的に登場しないので、彼女が龍馬のポジションを引き継いだことになるだろうし
(当初は“美人女子プロレスラー”風のビミョーなビジュアルだったのに、『~2』になったらいきなり萌えキャラにイメチェンしてて驚く。
というか、全体にキャラデザのクオリティが格段にアップ)。
ちなみに、“小龍女”というのは有名な武侠小説のヒロインの呼び名で、通り名と思われます。
未確認情報ですが、本名は“敖麗”だとか。
一方、『イタダキマン』の竜子(リュウコ)は、ここまでの龍女たちとは趣きが異なり、“竜の小笛”なるものの持ち主=三蔵法師の子孫(?)に使役される境遇の、妙にユル~い娘でした。
それが、ナゼかデンデンムシ型のメカに変身するという、カオスな設定。
ところで、この玉龍を女の子にするというアイディアは、“手塚治虫版竜子→アニメの竜子”あたりがやり始めたことかな~と、なんとなく思っていたのですが、『「西遊記」受容史の研究』(磯部彰:著)という本によると、『西遊記』を改作した人形浄瑠璃『五天竺』では、三蔵の父の仇の水賊・劉洪の娘で三蔵に懸想する“芙蓉”という美女の正体が、仏敵が送り込んだ手下で“蛇盤山”の悪龍(すごい超展開)ということになっているんだそうです。
設定も展開もまったく別モノですが、“西遊記”で蛇盤山の龍といえば玉龍しかいないわけで、これが玉龍娘化の事始めだとすると、日本人はこの頃(江戸時代末?)からこんなことやってたんですね。
いまだに関羽、張飛あたりを巨乳美少女にしたりしていることを考えると、日本人、まじブレねーな。
これはもう、同じ日本人として誇りにしていいと思いますっっ(笑)。
◎スペック
玉龍に活躍と言える出番があるのは、原典では上記の宝象国くらい。
ここでは、こともなげに美女に変身しています。
そして黄袍怪をシッカリたらし込んでいる。
変化できるバリエーションはわかりませんが、仕事の細かさとかビジュアル面では八戒には勝っているのではないでしょうか。
しかも、歌って踊れます。
この場面では、“逼水の法”なるワザで杯に酒を盛り上げて見せたりもしてます。
かくし芸レベルですが(日常の場面では地味に使えそうな気も)、液体の表面張力をコントロールしていると考えれば、水を操る能力なのでしょう。
これはしかし、映像化される際には悟浄の持ち技となっていることが多いので、玉龍は分が悪い。
(『S.Y.K~新説西遊記~』というゲームでは、珍しく玉龍が水芸を使うようですね。)
コーエー版『西遊記』の朱涼鈴や、『西遊釋厄傳2』の小龍女など、娘化されているゲームでは身軽なスピード・タイプをやってることが多い。 そういうキャラの女の子のイメージなのですね。 はねっかえり。
まあ、ドラマなどに出てきても、たいていポジション的にオマケ扱いなので、これといった能力も無いことが多いかな、と。 基本的に露出が少ないから、設定付けてやっても使いでがないし。